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いつかギャフンと言わせたい

平凡な会社員が、いつか周りをギャフンと言わせるために日々スキルを磨くための記録。

『研究を売れ!』優れた研究でも売り方、出し方が大事。

研究をいかにして世に出すか。こういった悩みを持つ人は、世間的には少ないと思います。それにひきかえ、イノベーション関連の本や記事って結構多いように思います。この本は、単にイノベーションはどう起こすか、という観点ではなく、様々な研究をいかにして世に出すか、というミッションを持った「研究営業」と呼ばれる(呼んでいる)職種に関する話です。

研究を売れ!―ソニーコンピュータサイエンス研究所のしたたかな技術経営

研究を売れ!―ソニーコンピュータサイエンス研究所のしたたかな技術経営

実は、企業の研究のあり方をリサーチしているなかで、ソニーの事例が良くヒットします。以前も新規事業創出の仕組みとしてソニーのSAPという仕組みをリサーチしました。

demacassette2.hateblo.jp

この時は、どちらかといえば、ベンチャー的なスピード感で、いかに大企業から製品を生み出すか、という視点に立った話でした。社内でアイデアを募集し、オーディションをして、合格したらある程度の予算と期間が与えられプロトタイプを作る。そしてそのプロトタイプを事業にするか検討する。うまくいけばテストマーケティングとしてクラウドファウンディングに乗っけたり、既存事業部へ引き渡す。といった流れです。

今回の話は、どちらかというともっと時間軸が長い話。だけど、本当に必要な時期に、世の中に大きなインパクトを与える技術や価値を提供しようとした場合、ちょこっとプロトタイプを作ったくらいではダメなのです。5年から10年くらい貯めに貯めておいた誰にも負けない研究を製品にすることで、相当な優位性を持ったものが生まれてくる。といった側面の話です。

著者について

夏目 哲(なつめ さとし)


(茂木さんの右にいる人です。)

1988年東京大学理学部地学科地理学課程卒業後、ソニー株式会社に入社。電子デバイスの生産管理、経営管理、輸出入法律実務に従事する中、シンガポールの生産工場、地域本社に二度にわたり計6年赴任。その後本社事業戦略部を経て、360度全方位・自由視点映像の事業化に参画。その経験の中で、複数の研究実用化を担当する研究プロモーション組織の必要性を実感。2004年に株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に異動し、研究プロモーション組織「TPO(テクノロジープロモーションオフィス)」を立ち上げ、統括に。



所眞理雄(ところ まりお)

慶應義塾大学教授を経てソニー株式会社執行役員上席常務、チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)を歴任。その間、1988年に株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所を創設。代表取締役社長、代表取締役会長を経て、エグゼクティブアドバイザーに就任し、現在に至る。専門はコンピュータサイエンス、科学技術論、研究マネジメント。一般社団法人ディペンダビリティ技術推進協会(DEOS協会)理事長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

概略

まえがき

「画期的な研究成果が出たのに、商品事業部は受け取ってくれず、一向に商品化されない」
「新しい技術ができたが、どこに持って行ったらいいか分からない」
「最近話題のあの技術、7年前に自分が研究していたものと全く同じだ。先に実用化していたら世界初だったのに悔しい!」

多くの研究者が、研究だけでなくその後の実用化の段階で日々苦労し、悔しい思いをしていると思う。
 一方、研究所のマネジメントも、いかにして研究所のパフォーマンスを上げるか、いかにして新しい研究成果を生み出し、それを実用化するかに日夜腐心しているはずだ。

まさにその通りだと思う。私もとある企業の研究所に勤めているが、ほぼそのままの言葉を聞くことがある。そして、実務をしていた頃はそう感じる場面もありましたね。

「うちの研究所の成果をなぜ商品事業部は引き継いで商品化してくれないのか」
「既存技術の改善はいいが、研究所に期待されている全く新しい技術を生み出しても、持って行きどころがないじゃないか」

 私はそれに対して、「研究営業」という組織を研究所の中に持つことが、一つの解だと考えている。

 あくまで一つの解と表現していますが、幾つか考えられる打ち手の中でも、もっともコアな解だと思う。その結論に至る経緯も書かれているが省略する。


TPO(テクノロジープロモーションオフィス)の誕生

 TPOとは、「いくらいい研究成果をあげて、良い論文を発表しても、それが必ずしも実用化には到達できない、という現実問題に対して、商品、サービスを扱っている事業部と研究所をつなぐ役割をする組織」だそうだ。

 確かに、これは合理的であり、あるべき姿であると直感的にわかる。そもそもすごい研究成果を出せること自体も大変なのだが、それをさらに実用化して、世の中で役に立つ形に変えることは、さらに大変になってくる。一方、企業が持つ研究所は、単に基礎的な研究をしていればいいわけではなく、むしろ会社の売上や利益につながらなければ、存在意義がないとも言える。

 そこで、研究所のスタッフやマネジメント層が頭を抱えるのが、「いかに良い研究をし続け、商品・サービスにつなげるか」ということに尽きるのではないか。本来なら、ある組織や部門が果たすべき役割が達成できなければ、その組織は解体されても仕方がないのだが、こと研究開発部門については、捨てる勇気を持つことが難しい場合もあり得る。解体してしまえば、今までの成果やノウハウは消えてなくなり、今後の発展が見込めない。一方で、成果が出ないまま経費だけ食うようなコストセンターは、会社にとってはお荷物である。この状況を打破するには、TPOのような組織や役割は合理的な考えから言っても、必然的に必要な機能であると思う。

 だから、ソニーがTPOを誕生させたことは、すごいことであると同時に、研究所といった部門が誕生すると同時に、このような組織が必ずしもあるわけではないということも示唆している。おそらく、TPOのような機能が求められるタイミングは、研究所が行き詰まっているときなのかもしれない。

 ソニーのTPO誕生の背景は、著者の夏目さんが、ある単体の技術を事業化しようとした際に苦労し、事業化には至ったが成功はしなかったという経験が小さなスタートのきっかけであるとしている。つまり、いくら技術が優れていても、技術単体もしくは単体の技術での商品化や事業化は成功確率が低いということを身に沁みて感じたため、TPOのような機能をぼんやりイメージしていたとのこと。

 やはり経験が大事なんですね。

TPOのミッション:「CSL研究成果の最大化」

 何か組織が新しく立ち上がると、その組織の方針や目的、目標を定めることが大事になる。TPOは、まずミッションを宣言したらしい。確かに、こうすることで、自分たちの思考や行動の指針ができるので、仕事の取捨選択、優先順位付けが明確になる。かなり参考になります。


研究営業の手法

 研究営業の手法は、通常の営業活動とほぼ同じらしい。扱う商材が「研究成果」になっただけと考えればよいのかも。

研究成果の仕入れ

 まずは、扱う商材を仕入れないといけない。魚であればせりがあるように、研究成果であれば、それを見極める場が必要である。それが「研究成果報告会」ということらしい。毎年4月に開催され、マネジメントを含む全員の前で、研究内容、特許取得、論文投稿等のレビューがなされる。実は、この報告会は各研究員の年棒にも影響するので、各人40分のプレゼンはかなり熱が入るようだ。

 この場に、TPOスタッフが同席し、「研究成果を仕入れ」るわけだが、内容は高度な専門性をもっているため、プレゼンだけでは理解できないこともある。その場合のために、フォローアップミーティングを別途行い、研究者から詳しい話を聞く。こういった形で、研究者とTPOがコミュニケーションをとることも信頼関係構築に重要なことだろう。

営業素材としての整備

 上記の仕入れの場や日常の会話での仕入れ活動から、営業用の素材をつくっていく。これは「営業チラシ」と呼ばれ、以下の点がコンパクトにまとめられている。

このテクノロジータグが秀逸なのだ。これには3種類あり、

  1. 研究そのものが社外秘である状態(鍵マーク)
  2. すでに商品化、実サービス化されている状態(紙袋マーク)
  3. その技術のサンプル版が提供可能な状態(試食ケーキのマーク)
  4. すでに開発本部と手を組んでいる(コラボマーク)

これらが表記されていることで、見る側がその技術の状態から、議論を進めやすくできるだろう。

10年間で、254ページに蓄積された。これで、自然と技術のたな卸しができるというわけか!?


営業活動

 研究成果の顧客(売り先)は、ソニー社内の各事業部である。TPOのスタンスは、売りたい相手に押しかけて、出張デモンストレーションをするスタイルらしい。そのため、前述の営業素材の作り込みも去ることながら、自分自身で、研究成果や技術概要を説明し、質疑にも答えないといけない。これは相当な努力が必要でしょう。その際のポイントは、

  • 研究営業部隊だけで説明できる状態にする
  • いかに相手の心を掴むか。
  • いかにウケをとるか。
  • いかに寝させないか。

 ここで、話を聞いてくれた人にだけ送られるのが、「T-pop News」というソニーCSLが発行するメールマガジンである。この誰もが受け取れない特別感を演出することで、メルマガがゴミ箱直行になることを防いでいるらしい。つくづく、よく考えられている。。。



技術提供同意確認書の重要性

 これは、字を読んでごとくの書類である。研究成果を提供しますので、この点に注意してくださいね。おねがいします。といった書類。通常、契約書っぽいものは、部門長などの長たるものの捺印が必要だが、TPOではスピードアップ、効率化を図るために、担当者でも誰でもいいので、PDFファイル上でタイムスタンプを押せばよいだけにしている。(これも秀逸)
 さらに、この書類は、紙にはならないため回議の手間も時間もいらない。もし共有したければ、メールで一発ポンで済む。(つくづく秀逸)

 この手続きがあることによって、開発本部が商品等を出した際には、CSLの名前を明示することが義務付けられる。さらに、技術提供の費用は、すでに本社から予算をもらっているので、かからないということだ。

さいごに

 実は、もっとレビューしたいこともたくさんあるのだが、あまりにも自分自身が目指したい研究所のあり方に近いため、もっともっと噛み砕いて自分のものにしたいと思っている。なので、レビューはほどほどにして、仕事に反映させるための資料作りに生かそうと思っています。


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