いつかギャフンと言わせたい

平凡な企業研究員が、いつか周りをギャフンと言わせるための野心的かもしれないゆるい記録

『ソニー再興の劇薬 SAPプロジェクトの苦悩』を見れば、大企業からイノベーションが出ないとか言い訳している場合ではないと焦る。

 さて、オープンイノベーション関連シリーズです。オープンイノベーションについては、過去に数回記事*1*2にしていますが、今回はめちゃくちゃわかりやすい具体例です。

ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘

 「ソニーって最近新しいもの出した?」

 こんなことを言われ続けて、数年が経ち、いよいよソニーが本気になりました。昭和の時代をものづくりのトップランナーとして駆け抜けたソニーは、平成に入り低迷。アップルやグーグルなどのシリコンバレー系に押され、サムスン、LGなどのアジア系メーカーにも悔しい思いを経験しているはずである。

 そんな経験を経て、平井社長に世代交代して、いよいよソニーが復興をし始めているらしい。その中身を紐解くのがこの本なのだと思ってます。

読んだ後の全体的な感想

 この本は、とてもリアリティーを感じる内容でした。それはなんでだろうと思い返してみると、以下の2点があると自己分析しました。

  1. この本を読む以前から、ネットなどでSAPについて調べていたので、知りたい欲求が強かった
  2. 本の中に出てくる登場人物は、すべて実名実在する人で、その気になれば現実に接点を持てそうな気がした

 1については、自分の仕事上必要と感じて、下調べしていたものですが、なんとなくソニーという会社も好きだし、個人的な思い入れは強かったのかもしれません。
 2については、これは本の作り方に工夫があったのかもしれません。もしかしたらこういった感情を引き立てるために、わざといろんな人を登場させて、リアリティーを生み出しているのかも。または、SAP自体がまだ発展途上というか、これからもどんどん伸ばしていくべきシステムだと思われるので、現在進行中のプロジェクトやプロトタイプを広く周知し、応援してもらう意味もあったのかもしれません。もしそうゆう意図があるとすれば、私はまんまとはまってしまった形になります。

 そして、今回はあんまり詳しいレビューはしないことにします。その理由として、一つは内容の一つ一つに大きな意味があり、真面目に書くと全部を記録したくなるから。もう一つは、ほんとに興味があれば、SAPを応援したり、SAPを支援する場(SAP Creative Lounge)に行って見れば、実際に何が起きているのかを見れるからです。

 なので、今回はほんとにインデックス的でかつ私が読み返したいポイントだけ記録します。


著者について

西田宗千佳(にしだ むねちか)
f:id:demacassette:20160830232353j:plain
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。
得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞アエラ週刊朝日週刊現代週刊東洋経済GetNaviDIME日経トレンディ、 AV Watch、ASCIIi.jp、マイコミジャーナルなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
出所(Amazon.co.jp: 西田 宗千佳:作品一覧、著者略歴


(その他の著書)

ソニーとアップル 2大ブランドの次なるステージ

ソニーとアップル 2大ブランドの次なるステージ

クラウド・コンピューティング (朝日新書)

クラウド・コンピューティング (朝日新書)


SAPとは

 本書のサブタイトルにもあるこの"SAP"とは一体なんなのか。これを知らずにはこの本は読めません。本文中にも説明はありますが、事前情報があった方が入りやすいのは間違いないです。

ソニー社内ベンチャー育成プログラム「Seed Acceleration Program(通称・SAP)」

 既存の事業部の枠に収まらない新しいアイデアや企画を掘り起こし、製品化、さらには事業化を目指して育成する。担当人数は少ないながら、同社の平井一夫社長兼CEO直轄で進められている。2014年4月にスタート。

ソニーニュースリリースを探したけど見つかりませんね。

 この本の帯に書かれているように、ソニーのなかに(別の)ソニーをつくる」とはまさにこのこと。本のなかでも言及されているように、こうゆうことをすると企業がもともとやってきたことを否定したり、つぶしたりし兼ねないのですが、そこをうまいこと調整してやっている印象です。社長直轄なので、調整も何もうまいことやるしかないという社内全体の意思統一が図れているのかもしれません。これは社長直轄ではなく、一事業部門での取り組みならこうはならないでしょう。


 そして、本のなかで印象的だったのは、「とにかくマウンドに立つこと」を第一に考えていることでした。企業内では見栄えのする企画書や声の大きい上層部の近くにいることで仕事が来たり、自分の思いを実現できたりすることが往々にあります。しかし、そういった機会がないけど、熱い思いを持っている人がいたら?その熱意、思いを拾えずにつぶしてしまうことは、企業にとっては実は大きな損失になることでしょう。しかし今までは、そういった小さな変化より、大きな収益、うねりが重視されてきた。だからイノベーションが起きなかったのかもしれない。こういった仮説に寄り添って、SAPの仕組みが構築されているように思います。


 本のなかでも「企業では、よくシャドーボクシングがおきがちです。」とありました。つまり、取り繕った資料、筋の通った理屈はいくらでも並べられるが、リングには立たず、あとは誰かがやるのに任せる。これが大企業あるあるだと。そうではなく、「まずは地区大会でもいいからマウンドに立ってみよう」的な表現がありました。これはわかりやすいなと。投球練習、フォームのチェックばかりしているのではなく、戦ってみて修正しようといった心意気です。これを重視して作られたのがSAPの大まかな枠組みだと感じました。

出所
www.recruit-lifestyle.co.jp
trendy.nikkeibp.co.jp

参考
forbesjapan.com
SAPをサポートするクラウドファウンディングサイト「First Flight」
www.sony.co.jp



SAP発の製品、事業の一例

 いろんな記事に出ているように、HAUS、wena wrist、FES watch、スマートロック、アロマスティックなどなど、すでに結構出てきているんですが、個人的に気になる物だけ紹介しておきます。
SAP発の製品は、先述のFIrst Flightに掲載され、販売されたり、支援を待っていたりと、ある意味テストマーケティングされている状態です。
f:id:demacassette:20160831002806p:plain
first-flight.sony.com


MESH

MESHとは?

さまざまな機能を持ったブロック形状の電子 "MESHタグ" を"MESHアプリ" 上でつなげることにより、あなたの「あったらいいな」を実現できる。それがMESHです。

難しいプログラミングや電子工作の知識は必要ありません。IoT(モノ・コトのインターネット化)を活用した仕組みも簡単に実現します。

遊び心を形にできる MESH | First Flight


MESH Introduction

このサイトで購入できる。
meshprj.com
discover-online.jp

 このMESHのすごいところは、近年のはやりでもあるIoTという動きに対して、ユーザーインターフェイスをとことんわかりやすくして、顧客に価値を広めようとしているところだと思います。一般的なIoTといえば、小難しいセンサー、マイコン、制御するプログラムといった知識やスキルが必要になると思えて、一般顧客には縁遠い存在になりがちです。そうなると、物事が一般化しないので、みじかなものにならず、結局は一部の技術者や研究者、トレンドウォッチャーの流行だけで終わりそうな感じです。かつての電脳住宅のように。
 そこで、IoTのネックの一つである制御プログラムをアプリで簡単に操作できるようにし、センサ類も光や音、人感、温湿度などを個別にパッケージ化して扱いやすくしています。これが革新的なのだろうと思います。


エアロセンス

 エアロセンスは、製品というより新しい事業体として価値を提供しようとしています。

エアロセンスは、ソニーのカメラ・センシング・通信ネットワーク・ロボット分野における技術と、ZMPの自動運転・ロボット技術・産業分野へのビジネス経験を活かし、建設、物流、農林水産等、生活を支える基幹産業におけるリーディングプレイヤーと協業しながら、2016 年前半より法人向けにソリューション提供を開始します。

www.aerosense.co.jp

リリース
www.aerosense.co.jp


 エアロセンスは、いわゆるドローンによる自動計測サービスの事業体だと捉えられます。このあたりはまさに流行りの業態なので、どの部分が他社と違うのか、優位性があるのかはあまりつかめていません。記事によれば、データ取得、転送、解析をクラウド上で自動で行えるというところが強みのようです。ソニーバイルとロボット企業ZMPの強みのいいとこ取りを狙っている?

そのソリューションとは、空から撮影した画像をクラウド管理して解析に役立てることで、従来は実施が難しかった詳細な建設現場の管理や物流の管理、農作物の状態確認を自動で高精度に行うことができるというもの。UAVは自動で定められたルートを飛び、必要な写真を自動で撮影します。そして地上に戻ってきたUAVから取り出したデータを管理用PCに近づけると、これまた自動でデータを吸い出して自動でクラウドへアップロード。そのデータを毎日のように蓄積し、クラウドで解析することで各産業にとって利用価値の非常に高いデータを得ることができるようになっています。

さいごに

 一言で言えば、ソニーの見る目が大きく変わりました。他の家電メーカーや企業も同じように新しい取り組みは行っているのでしょうが、SAPほど情報を開示したり、実績がでている事例は少ないのではないでしょうか?(これは私が知らないだけだと思います)
 企業にお勤めの方、いろんな立場の方がいらっしゃるでしょうが、「業界が違うからうちでは無理だ」とか「会社の規模が全然ちがう」とか「もともとの社風がうちとは違う」だとか、自分たちでは取り込めない理由を挙げたくなる気持ちはわかりますが、一旦それを横に置いといて、一読する価値はあると思う一冊でした。
 そして、実際の取り組みを見たり、参加したりすることもできることがすばらしい。それがあるから、本やwebサイト、SNSなどの差mざまな媒体が活きてくるのだろうと思いました。

以上


読了期間:8.22-24