地震や建物について正しく理解して、余計な不安を取り除こう(エキスパンションジョイント、瓦は落ちて良い)


「熊本で最大震度7地震発生!」
2016年4月14日(木)21:26に、熊本地方で発生したマグニチュード6.4の規模の地震が発生しました。そのときの最大震度は7となり、大きな報道がなされました。現在も大きな余震が続き、被災者の方は室内に居たくない状況だと思います。

支援物資や義援金など、被災地のためにできることは限られていますが、できる限りのことをしたいと思っています。また、東日本大震災のときも問題になっていた、「なんかしたいので来ました!けど、泊まるところも食べ物も持ってきていません!!」みたいなボランティア精神には溢れているが、現地にとってはお荷物になってしまうという心意気はあるけど配慮が足りない行動は避けたほうがいいですね。被災地より遠くにいる方は、応援したい気持ちは一旦抑えて、1ヶ月は様子を見ましょう。(家族のいる方は別だと思いますが)

と、ここで、私は直接現地へ支援には行けませんし、まだ行く気もありませんので、ここでできる情報発信をしてみたいと思います。以下の情報は、報道等であまりにも大げさに言われる言葉や現象ですが、正しく理解するために少し書いてみました。

(内容)

震度7以上の震度はない!

 防災関係の人には常識だと思いますが、震度7以上の表現は日本ではありません。つまり、地球を破壊するほどの地震被害があっても震度7です。また、震度とマグニチュードを混同する方も多いと思いますが、意味が全く違うのでご注意ください。

  • マグニチュード・・・地震そのもののエネルギー(破壊力)を示すもの。熊本ではM7.3の地震も起きました。東日本大震災ではM9.0でした。一回の地震で一つの値しかありません。
  • 震度・・・地震による被害を示すもの。震源地が近ければ震度は大きくなる。なので、一回の地震で観測地ごとに震度が異なります。

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マグニチュードと震度の違いより


↓正式にはこちら
www.jma.go.jp

震度とは、かつて、震度は体感および周囲の状況から推定していましたが、平成8年(1996年)4月以降は、計測震度計により自動的に観測し速報しています。気象庁が発表する震度は、気象庁地方公共団体及び(独)防災科学技術研究所が全国各地に設置した震度観測点で観測した震度です。

今回の地震では、おそらく震度計の真下が激しく揺れたため、局地的に震度7を記録したのだと思われます。ほんとに瞬間的に震度7を越えれば、もうそれは最大震度7ですので、そればかりが強調されてしまいますね。実質的には震度6強クラスの地震だと推測されます。

マンションの亀裂は悪い場合だけではない

 横浜のマンションが傾いて、ヒビが入っちゃったことで皆さん過敏になっているのでしょうが、ひび割れの全てが悪者ではありません。
virates.com

そう、エキスパンションジョイント地震時の建物被害を減らすための緩衝部分のことなのです。
この図がわかりやすい↓


ま、割れた瞬間にその場にいたら大惨事ですけど、このエキスパンションジョイントがなければ、マンションの本体にもっと大きな被害が出ることになります。あえて弱い部分をつくっておくといった発想です。

地震のとき屋根瓦は本来落ちるもの

 瓦は、比較的思い屋根材です。昔は、瓦と屋根の板材(野地板と言います)は釘などで固定されていませんでした。
buzzmag.jp

瓦同士で引っかかって乗っかっていただけです。正確には土や藁を混ぜた接着剤的な材料でくっついています。瓦が重いのもあり、日常では落ちる心配はありません。むしろ、風に対しては屋根は重い方が吹っ飛ばされないので、あえて重いものになっています。しかし、地震の際、建物の上部が重いと建物の柱や梁の負担が大きくなってしまうので、あえて落ちます。地震が来たら、瓦が落ちて屋根が軽くなり、建物被害が少なくなる、という工夫が日本建築にはあったのです。

九州は地震が少ないとみなされた地域

 実は、建物を設計する際に地域によって地震に対する設計基準が異なります。これ、よくよく考えたら結構根深い問題かも??建築士試験(学科)でよく出る問題としてはこんなんがあります。

地震地域係数Zは、過去の震害の程度及び地震活動の状況などに応じて、各地域ごとに1.0から0.7までの範囲内において定められている。

この地震地域係数は、日本全国の地域で割り当てられています。ほとんどの地域が1.0〜0.9です。実は九州は0.8です。また沖縄は全国唯一の0.7です。つまり地震に対しては、少し低減して設計していいということです。これまでの地震の実績が少ないから?断層も他の地域に比べて少ないから?一方、地震が多いと思われている静岡は、自治体が独自に1.2を採用しています。

建物設計時に、地震地域係数は以下のように用いられます。

「設計時に考慮する地震力」=「地震地域係数Z」×「標準地震力」

これ以降、以下のリンク先に詳しく書かれています。

【熊本地震】東海大の学生アパートを倒壊させた「地域係数Zの悲劇」

記事でも書かれているように、地震地域係数を0.8から1.0にするためのコストアップは、大したことないと思います。キッチンのグレードをちょっと下げるとか、植栽をちょっと自分でやるとかで吸収できるレベルだと思います。なので、施主が自ら「地震地域係数を1.0として設計してくれ」とか、「耐震等級は最高3で」とか要望したらきっと聞いてくれるはずです。ま、設計の方は嫌な顔するかもしれませんが、地震の時に建物被害が大きくなるよりはマシです。

さいごに

 私は実は建築系会社の研究職で、かつて振動関係の仕事をしていたので、地震や防災に関しては人に説明できるくらいの仕事をしていました。ですけど、地震を多く経験しているわけではありません。やはり、知識があっても実際に体験した人の説得力はすごいと思います。なので、報道やマスコミの人は正しく現地の状況を伝えて欲しいのです。でも、エキスパンションジョイントを単なる被害と報道してはダメダメ。熊本城の瓦が落ちていて、被害がすごいという誇張報道もダメダメ。あとは、各局に出ているお偉い地震学者さん、あんまり不安を煽ってはダメダメですよ。アナウンサーは、「今後も強い余震が続きますよねっ!?」といって煽ってきますので、それは断言できないというしかありませんが、その答えが結局のところ、まだ地震来るのか〜怖いよ〜を引き起こしてますよ。備えへの呼びかけは必要ですけど、無意味な煽りはやめませんか?この辺は賛否両論あると思いますがね。

何よりも地震を受けた地域の方が安心して暮らせる状況を取り戻せることを祈ってます。また支援金は、しかるべきルートでちゃんと現地で使われていることも祈ります。


おそらく、仕事上調査や支援に向かうことになると思います。そのときはめいいっぱいがんぱります。