『ホンダ イノベーションの真髄』から、大企業でもイノベーションを生み出す手がかりを探る。
新年度になって部署が変わり、新たなことを勉強していく必要がでてきました。詳しくはこちら。同じ部署の人たちと対話をしたり、それぞれの会話を観察する中で、人間性や人間関係が少しずつ見えてきた感じです。また業務を進める上で学ぶべきこともたくさんあり、その一つとして課題図書的なものをいただきました。
- 作者: 小林三郎(元・ホンダ経営企画部長)
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2012/07/26
- メディア: 単行本
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企業がイノベーションを起こすにはどうしたらよいか。その手法、仕掛けを知るには、まずイノベーションを起こしたとされる事例から学ぶべきだという当然の流れから、読むことにしました。ま、イノベーションを起こした企業は他にも山ほどありますが、自社に近いところで比較するほうがよいという判断でしょかね。
では、本文レビューですが、いろいろ心に刺さるところがありすぎるので、かなり印象に残ったところだけ抽出します。
- オペレーション(執行)とイノベーション(創造)
- 異質性と多様性がイノベーションを加速させる
- コンセプトと本質
- 俺が死ねと言ったなら、お前は死ぬのか?
- 二階にあげて、はしごを外す
- 根回しは逆効果
- イノベーションでは壁に必ず当たる
- イノベーションはオペレーションと同じ尺度で測れない
- イノベーションの危機において、我々は何をすべきか?
- まとめ
オペレーション(執行)とイノベーション(創造)
イノベーションの本質を理解する上で、いわゆる通常業務的なものと、そうではないものとして分けると分かりやすくなると解説されています。
p30
ここでいう、オペレーションは、論理的に正解を追求できる業務のことである。ここには「社員の給与計算」といった典型的な定型業務だけではなく、例えば、4〜6年間隔で実施するクルマのフルモデルチェンジ(それに伴う技術開発も含む)や生産ラインの改善活動も含まれ、企業活動の約95%を占める。
一方、イノベーションは全く異なる。「技術を現譲歩フェーズから未踏の領域へ飛躍させて、絶対価値(本質的な価値)を実現する」ことが目標である。最終的には成功か失敗のどちらかなので、改善や改良とは別物だ。
これはわかりやすい比較ですね。さらに、もっとわかりやすくしちゃうために以下のような比較表も提示されてます。とにかく、イノベーションは普通のことをやってるうちは起こせるものではないのだ!と言わんばかりですね。
区分 | 業務の中での比率 | 期間 | 成功率 | 手法 |
---|---|---|---|---|
オペレーション | 95% | 1~4年 | 95~98% | 論理・分析 |
イノベーション | 2~5% | 10~16年 | 10%以下 | 熱意・想い |
さらに、分かりやすくなっちゃいましたね。イノベーションの期間が10年以上ってのは、どこからを起点にするかも結構興味ありますけどね。映画なんかでよくある、「構想10年!至高の超大作完成!!」みたいなのって、思い描いた瞬間を起点にしてるのかなぁ。なんかそうゆうのと似ているような気がします。映画も、実際の製作期間は10年ではないはずですしね。
異質性と多様性がイノベーションを加速させる
イノベーションが起きる(起こす)条件として、よく聞くことですが、この本の中では以下のようにこの必然性が語られています。
p115
オペレーションは「魚がいる湖を前にして、効率よく魚を釣る方法をみつけること」だ。目標が明確で、ピンポイントに絞り込まれているので、そこに全力を集中できる。武器となるのは、分析と論理だ。
一方、イノベーションは「手掛かりがほとんどない中で、釣りたい魚のいる湖を探す」ことから始めなければならない。広大な領域をサーベイする必要があるので、とても分析しきれない。その際、「ここに湖がありそうだ」と当たりをつけるのに、異質性と多様性が不可欠なのだ。
確かに、イノベーションのようにこれまでなかったことをしようとする場合は、自分が担当していたことの範疇で考えても全くダメだということは感覚的にわかりますね。むしろ、感覚的にそれがわからない人は、同じ枠の中で何か新しいものを出そうとしているに過ぎないのかもしれない。
異質性や多様性を伸ばすための仕掛けとして、「あなたはどう思う?」を繰り返し質問し続けることあります。ホンダで行われているワイガヤでは、次の3つの質問を投げかけるようです。その意図と効果も語られています。
p119
- あなたの会社(組織)の存在意義は
- 愛とは何か
- あなたの人生の目的は何か
実は、この中に「あなたはどう思う」が隠れている。何事も当事者として考えることが重要なのだ。議論の最中や何かを決定/選択する際、「私はこう思う」を突き詰めておけば、「なぜそう思う」かが見えてくる。すると、「私は何がしたい」かが明確になってくる。それがあなたの個性であり、他の人との違いである。〜中略〜
魂から湧き出る「これをやりたい」という想いこそがイノベーションを加速させる異質性であり、多様性なのである。
これは、やはり自然に普通に何気なく仕事をしている人たちにはわからない境地でしょうね。魂から湧き出る俺はこれをやる!という意思は、ほんとに自分とむき合わないと出てこないと思います。今まで、僕はこうゆう境地に追い込むために、周辺の人に「もし独立して何か事業をするとしたら何をするか?」と問いかけたりしてました。でもこれちょっとちがいますね。イノベーションはそんな次元とも違うような気もしてきました。だって事業やるなら収益性だけでも成り立っちゃいますもんね。別に新しいことをやる必然性はない。
しょーもないことですけど、p141の「三元主義」の字が間違っていて、本当は「三現主義」ではないかと思われます。
「◯◯、バカヤロー」シリーズ
p165
あ、君ね。それ、成果ないから。それじゃ長期研究を、やるやつはいなくなる。
成果主義でイノベーションを評価しようとするおまえ、バカヤローだ。
コンセプトと本質
技術開発を始める前にすべきこととして、コンセプトをいかに明快な形で固めておくかということが語られている。
p169
普通に考えると、コンセプトは中身が重要で、それをどんな言葉で表現するかはささいなことのように思える。しかし、それは大きな間違いだ。ホンダでは、明快で簡潔な言葉で表現されなければコンセプトとしては認められない。言葉に落とし込むことによって初めて、コンセプトが完成するのである。
この前の章でもコンセプトについてかなり語られており、かなりコンセプト固めに力を置いているなぁと感じます。その理由として次の2つがあるようです。
- 開発チームが自分たちの理解を深めるため
- チーム内のコミュニケーションを深めるため
コンセプトってある種のその集団がもつ存在意義に近いものですよね。だから、簡単に揺らぐものではダメで、だからこそ、考えに考え抜いたものでなければならないということになります。当然といえば当然なのだが、人間というものは、途中で都合が悪くなると変えたくなるもの。そうゆう場面をよく見ます。そのときの変え方もケースによってまちまちですが、基本的に当初のコンセプトを捻じ曲げたのに、大きく成功したプロジェクトは見たことありません。
俺が死ねと言ったなら、お前は死ぬのか?
引き継がれる創業者のDNAとして、衝撃的なフレーズが語られていますね。これはほんと胸に刺さります。
p194
例えば、おやじ(本田宗一郎のこと)に直接育てられた世代の人たちには定番の一言がある。それは「俺が死ねと言ったなら、おまえは死ぬのか」というものだ。これは、こんな場面で使われる。技術開発を進めていく中で、上司から「こうやってみたらどうか」という助言を受けることがある。上司が言ったことがからといって全部やる必要はないが、理にかなったことなら当然やってみる。しかし、うまくいくとは限らない。上司は助言の内容を必ずしも覚えているとは限らないので、失敗したことを知って、「なぜそんなことをやったのか」と聞く。そのときに、「あなたがやれと言ったからじゃないですか」と答えると、前述の言葉が怒鳴り声で帰ってくる。「俺がやれと言ったからやった?それなら、俺が死ねと言ったなら、おまえは死ぬのか」と。
なぜ怒鳴るのか。それは上司が言ったことに対して無批判にそのままやるという姿勢が許せないからだ。失敗の責任を部下に押し付けようとしているわけではない。「あなたの助言のこの点に可能性があると考えて実験してみましたが、失敗しました」と答えれば、怒ることは絶対にない。
これ、ほんと痛感しますわ。私も入社して1〜2年のころは、ほんとに上司の言うことをやったのに、イマイチ反応が悪かったり、忘れていたりして、「なんだよ、こいつ!」みたいな感情になっていたことを思い出します。確かに、そこに自分の意志や考えはほとんど入っていなかったように思います。たいがい上司も言ったことは忘れているものです。今になったらわかりますね。言われたことを如何に効率良く無駄なくやるか、という点については工夫していたかもしれませんが、これは別に普通のことですね。
二階にあげて、はしごを外す
ホンダが若手技術者を育てる際の考え方が記されています。理にかなっています。
p202
100%の能力が備わるのを待っていたのでは時間がかかりすぎるし、その仕事での成長も期待できない。40%の能力があれば、その仕事に取り組む中で残り60%は成長するかもしれない。その方が人は早く育つのである。そのため、常に実力以上の仕事が求められる。
40%で若手に仕事を負かす上では、きっちり先輩や周囲がフォローしていることが前提にあるのだとも書かれています。しかし、人間は不思議なもんで、自分がやったことのない仕事や誰かに任された仕事って結構頑張りますよね。でも、その頑張りが結果につながらなかったり、何度も何度も同じような試行錯誤を繰り返しても結果が出ない場合は、やはり落ち込んでしまいます。これはモチベーション低下に拍車を掛けるので、本来は環境や振り方を変えるなりする必要があるのでしょうね。
根回しは逆効果
ま、これは普通の日本企業ではあり得ないことで、普通は根回しが結構重要とされていると思います。真田丸や龍馬伝なんか見てても、日本の体質は根回し体質では?と思うくらいです。もう太古の昔からそうゆう体質なのでしょうね。でもホンダは違うと。
p218
ホンダには根回しが役に立たないという変わった組織だ。特に複雑な問題ほど根回しはしない。帰って逆効果になるからだ。例えば、雨宮さん(エアバッグの試験走行を依頼しようとした米ホンダの責任者)はどんなに根回しをしようと、また誰からの依頼であろうと、ダメな場合は自分の判断ではっきり断る。それはホンダの社長であっても同じだ。だったら最も熱意を持ち内容にも精通しているプロジェクトの責任者が話す方が説得力があり、了承を得られる可能性が高い。
ま、確かにそうかもって気もしますし、そういった企業体質の方が真に求められていることをちゃんと見極められそうです。通常は(自分の所属する会社だけを見てすべてがそうだと思うのは間違いだとは思いますが、そうゆう前提で)、おそらく多くの日本企業が、直属上司がいて、その上の部長がいて、その上に担当役員がいて、副社長がいて、社長がいて、会長がいて、顧問がいて??その方々に説明を施し、了承を得て、やっとこさ大きな実験や取り組みができる。という流れではないでしょうか。これ、ほんと遅いんですねぇ。また、説明に伺うこと際に費用も発生します。また、伝言ゲームみたいになるので、先に行けば行くほど、プロジェクトが本当に伝えたい内容が薄れ、担当者の想いなどどっかいっちゃうわけです。そして、上司から「やっぱダメだったぁ」とかいう返事が返ってくることも。どうせダメなら、自分でいってダメと言われたい!そんな開発者の想いを大事にしているのがホンダの技術開発の体質ということになりそうですね。
イノベーションでは壁に必ず当たる
エアバッグの開発の話に戻りますが、1985年のエアバッグ発売の2年前に、当時量産のお願いをしようとしていたタカタから断りをもらったそうです。
p262
エアバックの部品で何かあったら、タカタが潰れる?そんな危ない橋は渡れない。
確かに。危ない橋に思えたのも当然です。何かありましたね、最近も。
news.livedoor.com
しかし、昨今のタカタのリコール問題は、タカタ自身の製品チェックや管理体制に問題があったと報道されていますので、この本にあるようなホンダがけしかけたせいで、大きな問題になったというわけではないと思います。なんせ、タカタはエアバッグを作ることにより多大な売り上げ拡大を成し遂げたのですから。
【参考】2012年3月期 売上高 3827億円(うちエアバッグ事業は1670億円で売上全体の43.6%を占める)
イノベーションはオペレーションと同じ尺度で測れない
イノベーションを起こそうとする活動に対する評価手法についてです。これまでの流れでわかるように、いわゆる改善改良的なオペレーションと同じ土俵で推し量ることは、最もナンセンスです。(うちの会社ではそれが起きていつもおかしなことになってますけど)
p278
イノベーションのプロジェクトはいつ成功するかも分からず、結局は95%が失敗する。それをオペレーションの尺度で評価すると、中止と判断されてしまうからだ。
そうそう、いつも新しいことを提案すると大抵中止と判断されちゃう。アホみたいな判断で。
イノベーションの尺度である、担当者の想いを評価するというのはいかにも漠然としている。想いが空回りしたり間違った方向に向いたりすることがあり得る。こうした空回りや間違いをしないために、ホンダでは、上司への報告や議論を通じて、「正しい方向を探すアプローチを熟知させる」ようにしている。
もしかしたらうちの会社にはこの力がないのかもしれない。正しい方向を探すアプローチを熟知させる前に、上司や上層部がそれを身を持って経験したことがないのではないか??ホンダのように、本田宗一郎から直々に成功法を叩き込まれている人は、迷わずにそれを信じることができるが、そういった成功体験や確固たる指針がない組織や企業においては、もしかしたらイノベーションを加速させる土壌自体が備わっていないのかもしれない。なんだか、そう思えてきた。
イノベーションの危機において、我々は何をすべきか?
さて、いよいよラストです。ホンダのイノベーションについて勉強してきた中で、では何から始めるべきなのか?が明快になってきました。
p304
危機に立ち向かうには、まずプロジェクトチーム単位で、ボトムアップで変えていくしかないということだ。あなた自身がイノベーションの本質を理解し、上司や経営陣を説得しながらチーム単位で成果を生み出すしかない。「上が悪い」と愚痴を言っているだけでは何も始まらない。あなたが挑戦しなければ、イノベーションは一歩も進まないのである。
最後に、ドンときましたね!結局は本質を理解している人間がボトムアップでも何でもいいから、何が何でもやってやる!くらいの気持ちを持って組織内で戦うということしかないってことですね。これまでも新しいことをやっている人の本を読んだり、実際に話を聞いたりしてきましたが、ほとんどの方が同じようなことを言ってました。最後は「やってやるという覚悟とやり続ける根気」だと。そうゆうことですね。その気持ちを持つためにも、「自分はこれでやっていく!」という強い信念を見出すために、「おまえがやりたいことはなんだ?」的な質問を投げまくることがスタートかもしれません。
まとめ
大手企業がイノベーションを作為的に起こすことが難しいということを再認識できたし、これまでイノベーションを起こそうとしてきた人の話とも大きなが差がなくてホッとしたというのが総合的な感想です。
これから、これまでとは違ったアプローチで研究ないし企画の仕事と向き合っていくことになると思いますが、また一つ考え方の参考になりました。
<参考>
イノベーションを起こしたおかげで、収益は上がったがリスクも抱えたタカタの現在
matome.naver.jp
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