待機児童がなくならない本当の理由と解決策を考えてみる(前編)


 twitter等で反響をよんでいる待機児童問題。

トピック「保育園」について

anond.hatelabo.jp
大元のソースはここのようです。はてなダイアリーだったのか。。。


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行列のできる保育所(待機中の児童数:約23,000人)

自体は深刻です。この本質的に問題になっている要素とその解決策とはなんなのでしょうか??

『保育園落ちた。日本死ね!』という過激な言葉により、話題に拍車をかけていると思われますが、いったいなんでそんなことが起きるのでしょうか?ま、この発言により、発言者本人も叩かれるというなんとも不思議な状況になっている部分もあるみたいですけど。深く見ていくと、どうやら今は保育園受かったみたいですね。よかったよかった。
anond.hatelabo.jp

・・・それでも、まだ怒りが冷めやらない様子。


ここで、ネット上で解説されている待機児童問題の本質的理由とその解決策について列挙してみます。
blogos.com
www.doyukai.or.jp
www.huffingtonpost.jp

shotakai.com



おおよその待機児童問題への解決策は、
「保育園が足りないのは保育士の待遇が不十分であるからである!だから、保育士不足対策を真っ先にすべきだ。」
だと解釈しました。

でもこれ、本当なの??


ちょっとこの辺りを疑ってみます。というか、もともとそれで全てが解決するわけがないと思っていました。もっと前の本質的な問題は見逃されているような気がするのです。というか、みんな触れないようにしている?報道でも触れないように蓋をしているのでは?というわけで、もう少し問題の根っこになりそうな部分まで遡って見たいと思います。

  1. 結婚しても女性がフルタイムで働くことが当たり前となった現代
  2. 地方から都会に出てきて働いているなどの理由で、親類が近くにいない
  3. 都会にはそうゆう人たちが多いので、保育園は満員状態
  4. 待機児童問題が解決されず、世間の怒りは沸点に達し、『保育園落ちた。日本死ね!』とまで発言されるに至る


以下からは、上のフローに関連するようなデータをピックアップして私なりの仮説を検証してみます。

1.女性の就業状況の推移

 まずは、昔に比べて本当に働く女性が増えたのか、という基本的な確認からです。国土交通白書2013*1によれば。
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出典:国土交通白書 2013 (3)女性の就業状況の変化, 図表57 共働き世帯・片働き世帯の推移

男女雇用機会均等法が1986年から施行されている影響もあり、1990年あたりから急に働く女性が増えていることがわかります。


もっと興味深いのが、年齢別の働く女性の割合です。
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出典:同上, 図表58 年齢階級別女性の就業率の推移

この図表によれば、緑色の線で示されている25~29歳の女性が1992年頃から急激に働き始めています!今やこの層の7割は働いていることになっている。逆に赤色で示されている20~24歳の女性の働く割合は減っています。これって、大学や大学院、博士後期課程など、学業系に進む人が多いからということなのでしょうか。
この男性版はないのでしょうかね。。。

2.親戚が近くにいない

 これは東京やその近辺で働く人にとっては当たり前の事実になりつつあるのではないでしょうか?

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出典:(1)子育て家庭の変化|平成18年版 少子化社会白書(本編<HTML形式>) - 少子化対策:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府
, 第1‐5‐2図 既婚者とその親との住まい方の実態

んー、これは全国版のデータなのであてにならないですが、参考程度に。ここで同居や近居という定義にあるように、近くに家族がいれば最悪自分の家族内で子どもの面倒を看ることが可能です。その究極携帯が家族と同居、いわゆる二世帯暮らしです。そのデータを見てみます。

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出典:統計局ホームページ/平成22年国勢調査 解説シリーズ 最終報告書「日本の人口・世帯」, 第13章 世帯の家族類型, p282

このデータで、いわゆる2世帯同居や3世代同居に該当するのは、「核家族以外の世帯」です。推移を見ると、平成7年には15%程度だったのが、平成22年には10%程度になっています。確かに家族との同居が減っているのがデータとしてもわかります。

 少々短絡的ではありますが、『夫婦が二人とも働く+近くに子どもを預けられる人がいない = 保育所に子どもを預けるしかない!』という構図がこれまでのデータから裏付けられつつあります。そういや、こういった状態の過程を救済するのが保育所の本来の役割だったのでは?というわけでおさらい。

2 保育所の役割
(一)保育所は、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十九条の規定に基づき、保育に欠ける子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり 、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない。

出典:保育所保育指針, 厚生労働省告示第141号, 平成20年3月28日

また、承知のことですが、幼稚園は文部科学省保育所(保育園と同義)は厚生労働省の所管です。だから意味合いや役割が違うのですね。中学校の社会の授業で習ったことが、今やっと役に立ってます!!!!
chigai-allguide.com


3.待機児童が増えている?

 さて、世間的に流布されている、「待機児童が増えている!」という前提ですが、それを確認してみます。

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出典:厚生労働省, 保育所関連状況取りまとめ(平成 25 年4月1日), p2

・・・なんと、待機児童数自体は、平成22年をピークにして、それ以降は減ってますね*2!!驚愕の事実を発見!って、それはもちろん気づいている人はいるようです。
www.huffingtonpost.jp


続いて、この厚生労働省の取りまとめの中で、最も注目すべき表がありました。
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ちょっと待ってお兄さん!(もう古い) 用意されている保育所数に比べて利用児童数がすくないじゃないですか!!
これって、「ちゃんと器は用意しているんですけど、それを利用してない人がいるんですよねー」とか厚生労働省の担当者がつぶやいてそうです。この事実はあまり知られてないように思います。おそらく、保育所としては数もあり、受け皿は用意されているのだけれど、利用する側が選り好みをしている、もしくは、自分の近所には人が多くて激戦区になってしまっているという現象が起きていると想像できますね。


それと、もういっちょ。
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わかりにくいので、注釈入れちゃいましたけど。
保育所利用率(C)=保育所利用児童数(A)÷ 就学前児童数(B)
ってことです。
保育所利用率が35%!?
65%の児童は保育所には行かず、誰かに預かってもらっているということ??もちろん幼稚園の数が入っていないことは認識しています。別のデータで幼稚園の利用者数を調べてみると、約158万人でした。(出典:統計局ホームページ/日本の統計 2015−第22章 教育)ので、それも考慮すると。

就業前児童数:634万人
保育所利用者数:222万人
幼稚園利用者数:158万人
保育園または幼稚園利用率:(222+158)÷ 634 = 59.9 %

なんと、全国の4割の児童はなんらかの理由で保育所や幼稚園には行っていないということがわかりました。


また、参考に地域別での待機児童数をみてみると

利用児童数(%) 待機児童数(%)
7都府県・指定都市・中核市 1,200,018人( 54.1%) 18,267人( 80.3%)
その他の道県 1,019,563人( 45.9%) 4,474人( 19.7%)
全国計 2,219,581人(100.0%) 22,741人(100.0%)

出典:保育所関連状況取りまとめ(H25年4月1日), 厚生労働省, p.5, [表5]都市部とそれ以外の地域の待機児童数

 この表の中で、%で示されているものは、全国計に対する各地方の比率です。ここで示したいのは、やっぱり都会に待機児童が集中しているでしょ?ってことなのでしょうか。ここに問題の本質があるように思います。

待機児童マップ
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出典:同上, p.11, (資料4)平成25年4月1日 全国待機児童マップ(都道府県別)

おっと、マップが出てきましたね。これに関連してマップによる解析をしたくなりましたので、地理的情報を絡めた分析は後編でやりたいと思っています。


4.「保育園落ちた!日本死ね」という気持ち

 以上の分析を基にして、本当に目を向けないといけない裏事情はありそうなのですが、現実問題として待機児童問題で苦しんでいる人がたくさんいます。そういった方々への救済や、逆に本人たちでなんとかなることがないのかなぁとか思ったりもします。これは他人事に聞こえるかもしれませんが、実は私も同じ悩みに直面する予備軍なのです。幸いなことに田舎の方に住んでますから、待機児童とはならないでしょう。これが待機児童問題から遠ざかる一つの有効な手段です。でもそれができない事情の方がいるから大変なのです。でもなんでそうなるの?というところまでは、実は深掘りできていません。後編に地理的情報を交えて、地域格差に切り込んでいきたいと思います。

とりあえず以上。後編に続く。

*1:少し古いですが、トレンドを確認する上では差し支えないと判断

*2:最新の結果を考察していないのは、とりあえず待機児童を取り巻く前提を知る為です。H27統計を見ると認可系の保育所が現れてきて今はパニックになると判断